カフカの魅力をたっぷりに表現するシアタートラム『カフカの猿(「ある学会報告」より)』

 
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   5月3日(木)(午後2時05分~3時04分)、世田谷パブリックシアター・シアタートラムにおける『カフカの猿(「ある学会報告【Ein Bericht für eine Akademie】」より)』の公演を鑑賞した。英国の女優、キャサリン・ハンターによる一人芝居である。
    満席で10数名の立ち見あり。作家の池内紀氏によるポストトーク(3時15分頃~3時54分)があったが、95%以上の観衆が参加した。
   英語劇としての翻案は英国の脚本家コリン・ティーバン、演出は、ウォルター・マイヤーヨハンである。2009年にロンドン・ヤングヴィック劇場で初演され、今回、日本で初上演となった。
   猿よりも猿らしい姿を表現するといった舞台、猿の生態をよく把握しているのだろう。柔らかな身体をフルに駆使してのキャサリン・ハンターの演技力には敬服する。内容は原作に忠実だが、一点、脚本家がオリジナルの台詞を盛り込んだ箇所があった。それは、最後に、“自分は基本的に孤独だが、一体、猿なのか、人間なのか、どちらの匂いもしない”という趣旨のことを語らせるシーン。
   この追加については、わかりやすくする意義がある。公式パンフレットによれば、プロダクション・ノートの中で、出演者、演出者とワークショップを重ねたコリン・ティーバンは、“原作の小説においては、半人半猿の主人公の姿は、個々の読者の中に別々の像としてイメージされる。しかし舞台化にあたっては、彼が誰で、何者なのか、我々の中で明確にしておく必要があった。”と語っている。そして、身体表現の中にその工夫を重ねたのであり、それは見事に成功しているが、それでも足りなかった部分をあえて台詞で補ったということであろう。
とはいえ、謎めいたところがカフカの作品の究極の持ち味とすれば、身体表現では大きな成功を収めているだけで、あえて付け加えたのは、どうなのだろうかという気がする。

   10分程度の休憩を挟んでポストトークが始まった。司会者は演劇ジャーナリストの徳永京子氏。
池内氏は、ずいぶん前にデュッセルドルフで若い人の演出で、このカフカの演劇を観たことがあるという。しかし、全く別の舞台で、テキストは小説通りだが、猿のぬいぐるみを着て、猿の方に重点を置いた演出だったようだ。
   カフカがこの作品を書いた当時、猿を使って興行を行う人がいたのだという。猿は言葉も話すという触れ込みだったが、これは腹話術を用いてのことだったらしい。カフカは、まず、興行そのものを書こうとした。それをボツにして、次は、対話形式で書いてみた。しかし、それもボツ。そして、現在の学会報告の姿で書き上げたのだという。なお、カフカは、さらに後半部分として別のノートに書いていたらしいが、そのノートは失われている。いずれにしても、月刊誌「ユダヤ人」第2巻、1917年10月・11月号に掲載された作品で、1919年には短編集「田舎医者(Ein Landarzt)」に最後の作品として収録されている。
   池内氏がカフカの作品について、長編、短編、四つ折りノート、八つ折りノート、ブロート版、写真校訂版など解説をする。そして、カフカは謙虚な人であったが、自分の小説こそ後世に残るものだという意思があったことを明らかにする。(死に直面して友人のマックス・ブロートに自分の作品の焼却を依頼したが、本当の意思がそうなら、自分で焼却していたはず。すなわちブロートこそ自分の作品を理解してくれるという期待があった。そして、当時、欧州全体に知られていたブロートはカフカの作品を世に出した人というだけになり、当時、あまり知られていなかったカフカは時代を超えた文学者となった。)
   徳永京子氏の質問は、“この作品の中には、【出口がない、自由とは違う】という台詞がたくさん出てくるが、どういう意味なのでしょうか?”ポストトークでは会場からの質問時間はなかったが、これは私も聴きたかったこと。(自由などほしくありません。出口さえあればいいのです。右であれ左であれ、どこに向けてであれですね・・・Nein, Freiheit wollte ich nicht. Nur einen Ausweg; rechts,links, wohin immer; ///)
   池内紀氏は、この台詞自体はカフカの地声だったのではないかと答える。『皇帝の使者』、『掟の門前』などの小品は、長編小説の中や他の作品の中でも使われている素材である。出口がない、答えがない、それは読者自身が考えるということだ、というモチーフは一貫している。答えがない作品を書く。出口がない→観察する→別の人格に移行 というのはカフカの底辺に流れるプロセスであった。

   一人芝居、舞台中央のスクリーンに映し出される猿の映像、2行単位のわかりやすい日本語字幕、舞台のすみずみ、そして観客を巻き込んでの演技(猿が最初に学んだ人間の仕草である挨拶、そして、バナナを食べることなど)など、実に魅力たっぷりの舞台、そしてわかりやすい池内紀氏のポストトークであった。


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